2010年06月16日

花火

突然君に連れ出された土曜の午後、東京湾の見える照りつけた街並に、浴衣を着た女のこたちで溢れていた。
君が内緒で連れて行こうとしている場所、東京湾の花火大会だった。
一言いっておいてくれれば、私も浴衣をきたのに、と思った。
付き合って2度目の夏、去年は花火を見にいくタイミングが合わなかったから、今年が始めての花火デートだった。
会場は人で溢れ返っていたけど、とても良い場所を取ることができた。
周りはカップルや家族ずれで、お酒を飲んで屋台の惣菜を食べている。

君はとても綺麗な顔をしている。
優しくて、温かい人だ。

花火が打ち上がる。
とても堂々としていて、美しく弾けて、賑やかしい。
心臓が震えた。
美しくて重い、その音と眩しさが私の心を壊した。
私はその壊れる音をはっきりと聴いた。
涙が出た。
花火が打ち上がるたび、心を傷つけられていく。
君が私の手を握るその強さや、熱が私を殺していくような気がした。
大きく美しく派手で楽しくて、堂々としていて、
それはまるで一つの家族のような強さだった。
重くのしかかるその言葉。
君がプロポーズしてくれたのは、去年の冬だった。
私は君のことが大好きで、死ぬまで一緒にいたいと願っていた。
きみもそう思ってくれている。
今も君はそう思ってくれている。
私自身も強くそう思っている。
きみ以上に好きになったりなんかしないってそう思う。
だけどこの花火をみる私たちの違いがその願いから、あまりにも遠いことに気がついた。
家族になるって恐ろしい。
自身の身体の重みで、ベッドのスプリングが沈むのを忌々しく思う。
私は自分が何かに影響しているということを嫌う。
そんな人間が心の綺麗な君と一生いしょにいれるはずなんてない。

この花火が終わったら、君に別れを告げよう。
君がどんなに悲しんでも、私の決心が変わらないように、堂々とした花火を思い出す。
君を不幸にしてはいけない。
自分のせいで、心のを貧しくさせては、私の人生はもっと惨めになる
さよならといおう。
酷く好きなのに、君がいなければしんでしまいそうなのに。
それでも君と別れよう。
ごめんね。本当にごめんね。
大好きだよ。
私の人生で一番大切な君。
いままでありがとう。
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posted by 久島枷絵 at 00:46| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

菜食主義者の引越し

18階建てのオフィス、12時頃になるとエレベータフロアの前に保険の勧誘の女性が立つ。
トイレに行こうとすると、すかさず駆けつけてくる姿をみていると「肉食女子向け職業」と差別的なイメージを持ってみてしまう。
数ヶ月前から僕は肉を食べなくなった。
食べない理由は色々あるが、とりあえずそのことがきっかけで、この夏引っ越すことにした。
肉を食べないことと引っ越すことになんの関係があるのかと聞かれると何の関係もない。
会社の人には「肉をたべなくなったので引っ越すことにした」と告げたが、理由を聞かれても答えられないので、みながそれぞれ勝手に理由を決めてくれた。
一つ目の理由
野菜が安い所に住みたいと思うようになったから
二つ目の理由
草食系の女子が多そうな街に移る
三つ目
自給自足のできる農業を始めるから
理由がないとなにかをしてはいけない世界にいつ足を踏み入れたのだろう。
僕の引越しは僕にとって意味などなくて、ただ菜食主義になったから引越しをするだけなのだ。
僕は面倒臭くなって会社も辞めることにした。
新しい生活は快適だった。
農家のある土地に住み、野菜を幾らか分けてもらえるようになった。
新しい職場も見つけた。
そこでは僕はもともと菜食主義であり、誰も引越しと菜食主義の関係を聞かなかった。
菜食主義は女の子にもてるらしく、僕の弁当を彼女がたちは毎日見にくるようになった。
いつのまにか彼女たちにランチ仲間に入れてもらうようにもなった。
そしてなぜか僕が話の中心だった。
彼女たちは僕に影響されどんどんと菜食主義に変わっていった。
ついに女子全てが肉を食べなくなり、僕のレシピを真似てお弁当を作って来た。
僕たちの顔は似ていくようだった。
ある日、僕のお弁当が豆とひじきのおにぎりと揚げと人参葉の胡麻和え、カボチャのミルク煮、豆腐と野菜のあんかけ団子だった日、彼女はやって来た。
「菜食主義の女性が多く働いていると聞いて転職してきました。」
といって綺麗な笑顔を見せたその人は生まれた時からの菜食主義だった。
彼女は「男の人もいるんですね」と僕のお弁当を見つめていった。
「そのお弁当私にもらえませんか」と彼女はいい、呆気に取られている女性社員たちをよそに僕は快諾してお弁当を差し出した。
「ごめんなさいね。あまりに美味しそうだったから。ごめんなさいね。私は菜食主義の女性にイメージされるような料理上手ではなくて。そうなんです毎日自分のマズイ食事を、食べて、こうやって、おいしそうなものに、巡り合うと、我慢できなくて」
そんなもろもろの事情を話しながら手と口を休めることなく食べ尽くしていった。
満足そうにした彼女をみて、僕はとても幸せな気分で満たされ「僕は毎日君の分のお弁当もつくってくるよ」
といい、彼女は生まれた時からの菜食主義らしい顔をして笑った。
呆れ返っていた女性社員たちは、その後僕に話しかけなくなった。
肉も食べるようになった。
勿論ランチを一緒にしようとする者もいなくなった。
僕は毎日彼女と二人、広いオープンスペースで僕が作ったお弁当を食べた。
彼女は僕の倍食べた。
けれどもちっとも太らなかった。
そんな日々が続き、僕はいつしか朝も夜も土日も彼女の食事を作っていた。
彼女は「あなたの料理って死ぬほど美味しいわ」といってくれた。
僕はその言葉のあとプロポーズをした。
幸せな結婚生活を送っていたある休日の朝、僕は僕が前の会社を辞めた理由を話した。
彼女はその日一日大笑いをしていた。
「理由がないことをする理由には必ず何処かに理由がつながっているの。」
彼女は鼻歌を歌い、時々引越しの話を思い出しては吹き出した。
posted by 久島枷絵 at 00:46| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

動物園

久しぶりに天気がのいい日だった。幾日か不安定な天気が続いていたので、洗濯物ができない乾かないと始終文句をいっていた彼女が鼻歌を歌って洗濯物を乾している。
随分と機嫌が良いようだ。
今話を持ち出すべきだった。
彼女の大事にしていたマグカップをこの間割ってしまったことを話すタイミング、それが今だった。
しかし久しぶりにこの機嫌の良い彼女に機嫌の悪くなる話を持ちかけるのは、果たしてどうだろうか。
僕は20分程度悩んだ。
彼女の淹れた紅茶を飲んで、彼女の雑誌を読んでいるふりをして、彼女の鼻歌を聴きながら。
彼女は二度目の洗濯物を乾し終わり、部屋へ戻ってくる。
僕は雑誌のページをパラパラと捲った。
そこにはかわいい写真が一枚。
僕は決心した。
「ミナコさん」
彼女の名前を呼ぶ。
「はい。ミナコさんですけど」
彼女が応える。
「ごめん。こないだ君のマグカップ割ってしまいました」
彼女がの顔が固まる。動きも。
「もう売ってないんだけど」
「知ってる
「なんで割ったの」
記憶では、
「自分のマグカップを取ろうとして引っ掛けて落としたんだと思う」
膨れっ面の彼女が僕の隣に座る。
「どう落とし前つけるか決めた?」
怖い。
「フェネックでどうかな」
溜息をつく彼女
「動物園日和だね」
僕は安息の溜息をつく
「でもダメ」
え?
「お弁当作って。デザートにチョコバナナパンケーキもなくちゃ許さないです」
ワガママきた。
仕方なく僕はありものでお弁当をつくる。
ピクニック用のお弁当に唐揚げが入ってなければ僕も彼女も悲しくなってしまう。
なので冷凍していた鶏肉を戻して、いくつかの唐揚げをわざわざ作った。
もうすぐ9時。
彼女は出かける準備をしている。ピクニックに似合うように花柄のワンピースを来ている。
僕は花柄のワンピースは好きじゃないのだけど。
そんな彼女を尻目に、チョコバナナケーキを焼く。
熟れてケーキに適したバナナからは甘い良い香り。
割ってしまったマグカップの代わりにフェネックのぬいぐるみを買おう。
彼女は多分、ぬいぐるみなんて部屋に合わないじゃないというけれど、まくらもとになにげなく置いておくだろう。
時々晴れた暖かい日に洗濯物と一緒に洗ったフェネックを乾すだろう。
思い出は些細な出来事と繋がってこれからも僕たちを繋げてく。
動物園にうってつけの日、マグカップを割ってしまった僕は彼女を動物園に連れていく。
posted by 久島枷絵 at 00:44| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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